日本国憲法前文~ロックの信託説を文章化した憲法前文~ | 桜内ふみき 公式サイト

日本国憲法前文~ロックの信託説を文章化した憲法前文~

YouTubeでの動画配信の告知をFacebookで行っていたのですが、どういう訳か直近2週間分の投稿がアクティビティログごとなくなっていました。6月14日公開の標記動画については、たまたま別のところで解説文を記録していたので、Wordpressにて復旧します。


主権者たる国民の生命・自由・財産を守るために政府は存在する。そして、政府の受託者責任を明らかにするために公会計制度が必要となる。

憲法前文第一段
「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。」

日本国憲法には占領下という制定過程の問題もありますが、その背骨に相当するロジックはジョン・ロックの「信託説」にあります。ロックは、1688年の名誉革命を正当化するために『統治二論』の中で信託説を主張しました。

信託(trust)とは、英米法独自の衡平法という救済法の中心にある法理論です。中世の十字軍に出征する兵士が信頼する友人に対して「自分にもしものことがあったら、自分の妻子を頼む」と言って財産を譲渡した場合、委託者である兵士の死後、仮にその友人が財産を横領としたとしても、普通法(コモンロー)裁判所では「所有権(財産上の物権)は正当に譲渡されている」ものとして、未亡人には一切の権利が認められませんでした。そこで普通法裁判所とは別系統の衡平法裁判所に訴え出れば、「委託者(ここでは戦死した兵士)が受託者(友人)に対し、『自分の死後に残された妻子を養う』という目的を設定した上でその財産を『信託』した場合、妻子はその財産に対する『実質的な物権』としての『信託受益権』を取得する」ものとして救済がなされました。この判例法が「信託」の法理となっていったのです。

信託法は、会社法と同様、組織構成を明確化する機能も果たしました。株式会社の機関と対比すれば、主権者(会社の所有権者)である株主(株主総会)が信託受益権者、受託者がマネジメント(取締役会)、組織の目的を明文化するのが定款といった具合です。実際、20世紀の後半まで、世界的に有名な保険会社のロイズやロンドン証券取引所も株式会社ではなく、信託によって組織運営がなされていました。

その信託のロジックを一種の社会契約として政府に当てはめたのがロックです。公会計でいえば、①納税者(委託者)が自らの財産を納税という形で政府に「信託」する。②その目的は、信託受益権者である「現在及び将来の国民」(憲法11条)の生命・自由・財産を守ること。③政府は受託者としての責任を負い、信託の目的「国民の生命・自由・財産を守ること」を達成できたか否かについて、信託受益権者「現在及び将来の国民」(憲法11条)に対して「説明(account for)」する。④その了承を得られれば「受託者責任が解除(discharge)」される。しかし、もし主権者の了承を得ることができなければ「受託者責任を明らかにする」、つまりその政府は統治権を奪われ、新たな政府が樹立されることとなります。最後の点は、ロックの「抵抗権」としても有名です。

信託のロジックは、アメリカの独立宣言(1776年7月4日)にも見られます。

『われわれは、以下の事実を自明のことと考えている。つまりすべての人は生まれながらにして平等であり、すべての人は神より侵されざるべき権利を与えられている、その権利には、生命、自由、そして幸福の追求が含まれている。

その権利を保障するものとして、政府が国民のあいだに打ち立てられ、統治されるものの同意がその正当な力の根源となる。そしていかなる政府といえどもその目的に反するときには、その政府を変更したり、廃したりして、新しい政府を打ちたてる国民としての権利をもつ。

新しい政府は、国民の安全と幸福が最大となるような原則の基盤の上に打ちたてられ、また国民の安全と幸福が最大となるような形の権力の組織化を図らなければならない。』

日本国憲法が信託説を基盤としている根拠条文といえるのは、憲法11条です。

『国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

憲法学上、基本的人権の享有主体性という論点があります。「現在の国民」に基本的人権の享有主体性が認められるのは自明ですが、まだ生まれてもいない人を含む「将来の国民」に基本的人権の享有主体性が認められるのか?普通法(コモンロー)である民法上の権利能力を有する主体でもない、まだ生まれてもいない人を含む「将来の国民」に基本的人権が「与へられる」のは、信託のロジックを措いて他にありません。信託では、まだ生まれてもいない人、(自分の老後を養ってくれた人など)まだどの人か確定していない人も含め、信託受益権者に指名することが可能です。憲法11条に関し、憲法学者でこのような考え方を示している方を寡聞にして知りませんが、上記のような歴史に鑑みれば、日本国憲法の背骨に相当するロジックとして「信託説」が貫徹していることは何人も否めないと思います。

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